第五話 いそぎんちゃく

13.ミルク


 『そこを噛んで……やさしく……あん』

 『触手女』は『巨大乳首』に寝そべり、トラジマの頭の上から甘い声を出す。

 トラジマは彼女の求めるまま、『巨大乳首』の正面に体を埋め、全身をこすり付けるようにしてそれを愛撫していた。

 サラサラサラサラ……

 乾いた肌がトラジマの胸板の上を滑り、トラジマ自身の乳首を立たせ、それが新しい快感を呼ぶ。

 ”いい……いいぞ……”

 うわ言の様に呟きつつ、トラジマは『巨大乳首』の愛撫に熱中した。


 ビクン!

 突如『巨大乳首』が震えた。

 ”なんだ……おわぁ……”

 『巨大乳首』からドロリとした白い液体が噴出し、トラジマを跳ね飛ばしたのだ。 彼は数mとばされ、背中から倒れた。

 『あん……よかった……』 『触手女』は気だるげに言い、するりと引っ込んでしまう。

 ”あぁびっくりした……いくならいくと……”

 トラジマは白い乳まみれで文句を言った。 立ち上がろうとするが、『いそぎんちゃく』の乳はドロリとして、体に粘りつく。

 ”へんなミルク……おお?”

 トラジマの体の上で、ミルクが固まりだした。 いや、辺り飛び散ったミルクとくっついて一つにまとまっていく。

 ”……”

 『……ふふ……なにを驚く……』

 トラジマの上で、ミルクが集まり『ミルク女』に変わっていた。 『ミルク女』は艶然と微笑み、唖然としているトラジマに

濃厚な口付けをする。

 ”……っぷ……そうか、お前達は『いそぎんちゃく』の郡体……珊瑚、いや「かつおのえぼし」の様に分化して、様々な

『女』を作り出す……"

 『その通り……』

 トラジマは『ミルク女』の口が動かないことに気がついた。

 ”……そうか、お前達がしゃべっているじゃないんだ。 俺達がそう思っているだけ……何で俺はこんな事がわかるんだ?

自慢じゃないが、俺は小中ずっと理科は1だったぞ?”

 自慢どころか恥である。

 ”……頭、そうか液状の『いそぎんちゃく』が頭に侵入し、獲物を虜にする。 その過程で獲物は『いそぎんちゃく』と共通認識

を持って互いを理解する……”

 呟くトラジマの眼前に、『ミルク女』のおっぱいが迫ってきた。 ゲル状のおっぱいが、顔面に粘りつく。

 ”うぉ……”

 『んふ……そう、私の声はおまえ自身の作り出した幻聴、私の形はお前の欲望が作り出したもの……』

 白い腕がトラジマの背中にまわりこみ、たくましい体をふくよかな『ミルク女』の中に埋め込んでいく。

 『我らは欲望のままに求め合う。 快楽を望むが良い』

 トラジマは、返事の変わりに頭を動かす。 『ミルク女』の乳房にうずもれ、舌をつきこんで『ミルク女』をかき回す。

 『あ……ぁぁ……よいぞ……よいぞ』

 『ミルク女』の足がトラジマの足と絡み合う。 白い下半身が、トラジマの下半身に溶け合うようにくっつき、女陰が崩れるように

形を変えてトラジマの男根に粘りついた。 

 ”うぅぅ……”

 亀頭が粘る肉壷に呑み込まれていく。 しわの一つ一つにどろりとした襞が絡みつき、微細な愛撫で肉棒を蕩かす。

 『ああ……熱い』

 ”な……なんて深い……いい”

 反り返った肉棒、それを『ミルク女』が侵食していた。 侵食しながら中から愛撫している。 

 ”こ……いい……染み込んで”

 肉棒だけではない。 『ミルク女』は、トラジマに触れている全ての箇所から、トラジマに侵食していた。 神経を直に愛撫する

『ミルク女』の快楽に比べれば、人間とのセックスなどウェットスーツ越しに抱き合っているようなものだった。

 ”ひ……ひ……”

 トラジマは、全身を包み込む快感に対応できず、ヒクヒクと痙攣していた。

 『気持ちよすぎて……いけないのかぇ? 少し弱めてやるゆえ、盛大に気をやるが良いぞ』

 『ミルク女』の愛撫が弱まる。 すると、男根が己の役目を思い出し、熱い快感が背筋を突き上げる。

 ”いぐぅぅ!……”

 凄まじい勢いで、男根が脈打つ。 精を放ったのか、そう感じただけなの判らないが、一生分の精を一度に放つかと思うほどの

快感が脳天を突き上げた。

 『あぁん……』

 トラジマに半ば溶け込みながら、『ミルク女』は悩ましげに腰を振った。

 二人は一塊になったまま、ビクビクと振るえて快感に酔いしれた。


 『ミルク女』がトラジマの手を乳房に誘った。 自在に形を変えるそれは、指の間じわりとにじみ出て手を覆う。

 ”あはぁ……”

 『気持ち……いい……』

 トラジマは胸に甘い疼きを感じ、視線をそちらにやった。 日焼けしていたからだが、やや白っぽくなり丸みを帯びている。

 『……』

 しかしその顔に驚きの色は無い。 『ミルク女』の侵食が進み、もともと乏しい思考力が奪われているのだろう。 

 ”うふ……さぁ……”

 『ミルク女』が変形した。 一瞬で69の体制になる。

 ”貪りあおうぞ……”

 『ミルク女』が男根を咥え、激しく吸い始めた。

 『うっ……』

 射精しているような快感と共に、何かが吸い出されていく。 トラジマの体が自然に動き、『ミルク女』の腰を抱えて女陰に

舌を突き入れる。

 ヌチャ……

 こんにゃくのような抵抗感を舌に感じた。 同時にもっと奥を舐めたいという欲望がわきあがる。

 ズルリ……

 舌が伸びた。 その舌が、『ミルク女』の中をかき回す。

 グチャリ。

 トラジマの体の中に、長いものが侵入してきた。 それが、体の奥深くをかき回す。

 『あ……あん……』

 トラジマの喉から甘い声が漏れた、女の声だ。 いつの間にかトラジマの男根は吸い尽くされ、そこに『女』が生まれていた、

『いそぎんちゃく』の。

 ”良い心地であろう……我らの快感は……”

 頭の中に『ミルク女』の声が響く。 『いそぎんちゃく』が生み出す甘い快感が、体に広がっていく。 それにつれ、胸がきつく

せりあがり、力が抜けていく。

 『あ……あぁ……いい……』

 か細い声が、自分のものだと思えない。 全てが魔性の快楽の生み出す白い闇に溶けていく。

 『い……い……いぃぃ……』

 包み込まれていくような快感に、トラジマは溶けていくのを感じた。


 僅かな時がたち、二人の『ミルク女』が立ち上がる。

 二人は互いの体を抱きしめ、一つに溶けあった。 そのまま形を崩し、『巨大いそぎんちゃく』の手の中に溶け込む。

 誰もいなくなったその場所から、風に吹かれたトラジマのウェットスーツが飛ばされ、暗い海に消えた。

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